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東芝「上場維持」も日本の産業界に残した教訓

1/20(土) 15:23配信

ニュースイッチ

何を学ぶか。再生ファンド、法務、会計監査からの視点

 東芝が2018年3月期末の債務超過を回避し、上場を維持できることがほぼ確実になった。連結子会社だったウエスチングハウス(WH)に関する親会社保証の求償権と債権を米企業に売却、売却益と税負担軽減で計4100億円の株主資本の改善を見込まれる。17年12月に実施した6000億円の増資と今回の措置により株主資本はプラス2600億円に改善する見通しだ。東芝の原子力発電事業の巨額損失問題は、産業界にさまざまな問いを投げかけた。そこから何を学ぶべきか。識者に聞いた。

<安東泰志氏>

 ―東芝の原発問題の原因は何だったのでしょうか。
 「複数の要素が絡み合っているが、大きいのはコーポレートガバナンス(企業統治)の不全だ。仕組みは立派だが“魂”が入っていなかった。例えば指名委員会は『いつでも社長を解任するぞ』という姿勢を見せなければならない。選解任を巡り両者には緊張関係が必要。しかし、そうなっていなかった。ガバナンスが機能していれば、不祥事や失敗があっても早い段階で軌道修正できる。東芝の危機もここまで大きくなっていなかったのではないか」

 ―銀行主導で東芝メモリの売却が決まりました。
 「債権回収を優先するのは銀行の行動原理で、仕方ない面もあるが、焦って“クラウンジュエル(魅力的な事業)”を売却する必要があったのか。東芝幹部とも話したが、判断の根底には『上場廃止は絶対ダメ』という先入観があったようだ。しかし上場廃止になっても株式の根源的な価値は変わらない。東芝メモリを軸に再建し、数年後にIPO(新規株式公開)させればベターだった」

 ―もっと多様な視点で再建スキームが検討されるべきだったと?
 「極論すれば民事再生法を申請し、身ぎれいになって再建する道もあった。東芝に限らず日本企業は『思い込み、先入観、しがらみ』で再建スキームの選択肢を自ら狭めている。もっと柔軟に発想するべきだ」

 ―メモリーなき東芝の再建策は。
 「不採算部門を切って成長部門に集中するのが企業再生の鉄則だが、東芝は成長部門を売ってしまう。再建の道は険しいだろう。IoT(モノのインターネット)技術を活用し、社会インフラ事業やエネルギー事業の付加価値をどう高めるかが焦点。日本には部品産業の集積があり、IoT関連の製品やサービスの実証実験を国内メーカーで完結できる。この地の利を最大限に生かしてほしい」
【略歴】安東泰志氏(あんどう・やすし)=ニューホライズンキャピタル会長。三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。02年、フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業した。三菱自動車など数多くの企業再生の実績を持つ。59歳。

<早川吉尚氏>

 ―東芝は06年に買収したWHをコントロールできず、それが原発危機の遠因になりました。東芝に限らず海外の買収企業に手を焼く日本企業は多いです。
 「買収相手の“箸の上げ下ろし”まで指示できる体制を構築しておくべきだ。暗黙の了解ではなく、契約で縛りをかけないといけない。相手の反発もあろうが、徹底的に交渉する覚悟が必要だ」

 ―東芝はWHについて「成長ありき、買収ありきの考え方で進めた」と失敗を振り返りました。
 「担当者がメンツを気にして悪い情報を上げない、起死回生を狙った“ばくち”で状況がさらに悪化する、といった悪循環があったのではないか。そもそも海外案件はリスクが高い。最初から撤退も選択肢に入れた上でM&A(合併・買収)を実行し、リスクが許容範囲を超えたら潔く引くべきだ」

 ―メモリー事業の売却では提携先のWDと係争になりました。
 「訴訟をテコに交渉を優位に進める戦略は海外企業では一般的。ただ東芝は『日本の産業界や国も巻き込んだこの案件でWDが訴えを起こすはずはない』と思っていたように見受けられる。WDが空気を読んでくれるだろうという楽観的な考えがあった」

 ―契約書の内容に詰めの甘さがあったとの指摘もあります。
 「英米法は基本的に契約書を文言通りに解釈する。単語が大文字か小文字かでも大問題になり得る。また契約書では準拠法や仲裁条項といった項目も重要だが、日本企業はこれらを細部として軽視する傾向があり、足をすくわれかねない」

 ―大手に加え、中堅・中小企業の海外展開も増えています。国際紛争への備えは。
 「日本には、中小企業も負担なく利用できる安価な専門仲裁施設がない。サッカーで言えばアウェーか第三国でしか戦えない状況で、それだけでハンディ。20年の東京五輪・パラリンピックは良いタイミング。国や産業界が一体となり、仲裁施設を整える必要がある」
【略歴】早川吉尚氏(はやかわ・よしひさ)=弁護士。瓜生・糸賀法律事務所のパートナー弁護士で、立教大学法学部教授も務める。専門はM&Aや国際的紛争解決。国際商業会議所の仲裁委員会委員や日本仲裁人協会の常務理事などを務める。49歳。

<八田進二氏>

 ―会計監査の観点から東芝の問題をどう分析しますか。
 「会計数値によって、各事業の実態を正確に把握しようという努力を怠っていたと考えられる。それにより正確な経営判断を下せず、不正会計や巨額損失を招いた。例えば11年3月の東日本大震災以降、原子力発電事業の環境は著しく変わったが、対応できなかった」

 ―きちんと情報を吸い上げるためには、どうすれば良いですか。
 「事業が落ち目になると、現場からは正確な情報は上がりにくくなる。リストラにつながるような悪い話を現場から率先して出せというのは無理がある。それを踏まえて、経営トップは情報を吸い上げる体制を確立しないといけない。そして何かあれば、ためらいなくリストラに踏み切る突破力がリーダーには必要だ」

 ―過去の決算をめぐり、東芝とPwCあらたの間で意見の相違が続き、決算の延期など混乱が生じました。
 「本質的に会計数値とは、連続的な企業活動を特定のタイミングで切り取った暫定値にすぎない。だから過去の数値を事後的に検証することは難しい。PwCあらたが疑念を抱いたことは否定しないが、期限を無視して調査を継続したにも関わらず明確な証拠や説明がなかった。結果的に投資家や市場に不要な混乱をもたらした」

 ―東芝は一時、監査法人を変えようとしました。
 「『監査意見の購買(オピニオンショッピング)』と批判する向きもあったが、別の監査法人の意見を聞いてみるという考えは間違っていない。医療診断のセカンドオピニオンと同じだ。会計監査にも同様の制度がある。まだ大企業の利用実績はないが、必要なら躊躇(ちゅうちょ)なく活用すべきだ」
【略歴】八田進二氏(はった・しんじ)=青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授。専門は会計監査論。日本監査研究学会や日本内部統制研究学会の会長などを歴任。金融庁の企業会計審議会委員や経済産業研究所の監事、日本政策投資銀行や日本航空などの社外監査役を務める。68歳。

潤沢になったキャッシュをどう使う?

【これから】
 18年3月期末の株主資本は従来見込みのマイナス7500億円からプラス2600億円に転じる。今後、東芝メモリの売却手続きが3月末までに完了すれば、さらに株主資本は1兆800億円増加し、1兆3400億円になる。大幅な財務改善が見込まれる中、東芝を担当する証券アナリストは「潤沢になったキャッシュをどう使うかが問われる。思い切った構造改革の実施や成長投資を期待する」と話す。

日刊工業新聞第一産業部・後藤信之、渡辺光太

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最終更新:1/20(土) 18:56
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